ホーム > 埼玉人生100年時代の楽しみ方研究所 > 家族や友達との関係も良好に?! 地域交流でコミュニケーションを学ぶ
<地域デビュー楽しみ隊:牧野美千子さん>
仕事に打ち込んできた人は男女問わず、地域での交流が希薄になってしまいがち。気づいてみると、友達や家族とのコミュニケーションも二の次、三の次にしていないでしょうか。
定年を迎えると環境は一変し、友達や家族、地域の人との関わりが一層大切になってきます。会社などの組織内と地域や身近な人とではコミュニケーションの取り方が違うため、「会社を辞めた途端、周りの人にどう接したらよいものかと戸惑った」という方も多いのだとか。
熟年離婚や「夫源病(ふげんびょう)」なども、コミュニケーションに起因することもあるでしょう。
今回は、芸能界から一般事務などのお仕事へ、そして地域での生活へと活躍の場を移してこられた女優で、地域デビュー楽しみ隊牧野美千子さんにお話を伺い、コミュニケーションのコツと地域交流の効能を教えていただきました。
牧野さんは『超電子バイオマン』で女優デビューされた後、人気絶頂の中惜しまれつつサラリーマンに転身。埼玉県庁で13年半お勤めになりました。その後は婚家が経営する築地の佃煮屋、「諏訪商店」で女将を務めつつ、女優業もこなす忙しい毎日を過ごされています。
自分自身を売っていく芸能界や組織の一員として利益を追求する会社組織では、自分をさらけ出してコミュニケーションを取ったり、喜怒哀楽を表現したりする機会は多くないかもしれません。
一方の築地では、近所の夫婦喧嘩まで皆が知っているというツーカーぶり。江戸時代から続く長屋では玄関を出れば隣の人と目が合うという環境。地域のコミュニケーションが毎日の生活に欠かせないのだそうです。
また、築地には定年がなく、70,80歳でバリバリ働く人も少なくありません。仕事をやめても関係は続くので、一人の人間として付き合いが濃くなる傾向があるようです。
毎日会社勤めをしていると、コミュニケーションが希薄になってきていること自体に気づきにくいかもしれませんが、毎日の買い物を振り返ってみるとその差は明らかです。
スーパーでは自分で商品を探してカゴに入れますが、品定めにお店の人と相談することは稀。最近では、会計までセルフサービスのところも出てきました。家を出て買い物をし、また家に戻ってくるまで、一言も話さずに買い物が完了してしまうことも珍しくありません。コンビニエンスストアで「ありがとうございました」と言われることはあっても、「ありがとう」「さようなら」と挨拶を返さない人が多いかもしれません。
築地のような場所で買い物をする場合はどうでしょうか。魚は魚屋、野菜は八百屋で買い物をすることはもちろん、「いらっしゃいませー!」とお店の人から挨拶があり、「今日のオススメは何?」「この魚はどうやって食べるのが美味しいの?」などという会話も自然に生まれます。
最初はびっくりした牧野さんも、「温度のあるコミュニケーション」が心地よくなってきたのだとか。
「築地には若い人もいらっしゃるのですが、買い物をしに来たというよりも、店の人との会話を楽しみに来ているような気がします。まるでゲームのように、何か新しいことにチャレンジするような感覚なのかもしれません。築地は病院が近いためか、定期健診の帰りに毎回お店に寄って、結果報告をしてくれる方もいます。(笑)
銀座や新橋からも徒歩圏内の築地ですが、都会の真ん中に江戸時代にタイムスリップしたような場所があるのは、不思議なことですよね。」(牧野さん)
築地の人々は江戸の歴史を守ってきているともいえ、個性的な人が多いのだとか。威勢の良い挨拶は、確かに珍しくなってきていますよね。
そうは言っても、急に自分をさらけ出して誰とでも仲良くする、というのは難しいことです。
「会社でキャリアを積んだ人などは無意識のうちにプライドもついてきているし、若い人や立場が下の人に、気さくに話しかけることを忘れてしまっているかもしれません。どんなものでも良いので、まずは地域のイベントなどに参加し、周りの人の様子を観察することから始めましょう。
部下をまとめてきた経験や上司と意見を調整した経験などがある方は、人の気持ちを推しはかるスキルを持っているはず。地域に顔を出しつつ、相手の気持ちを考えながら自分の意見や気持ちを少しずつ、出していくような感覚なら、無理なく地域デビューできるのではないでしょうか。
最初は1人と話すだけで良いのです。1人が2人に、2人が4人にと、自然に増えていくので心配はありません!」(牧野さん)
考えすぎず、まずは一人話せる人を見つけることが大切なようです。
そのうちに、これまでの経験を生かして迷える若い人の話を聞いてあげたり、ちょっとした困りごとを助け合ったりと、できることが見つかるとよいですね。
大人になるにつれ、失敗した姿やみっともない場面は他人に見せないようにしていくものですが、牧野さんいわく、「失敗をもオープンにする」のが築地スタイルなのだとか!
「心を開く、ありのままの自分をさらけだすという言葉をよく聞きますが、要するに"格好つけない"ということ。そうすれば、周りの人が応援してくれることに気づくことができます。
年齢が上がるにつれて、意識的に心を開く必要があるのではないでしょうか。若い頃を振り返ると、年上の人は話しづらい存在でしたよね。でしゃばったり、上から目線でモノを言ったりするのは良くないですが、年上のほうから気軽に声をかけることも大切だと思います。
失敗は決して格好悪いことではありません。失敗を恐れずチャレンジしている姿は、何歳であっても格好よく映るものです。背負ってきたものをいったん横において、人生を楽しみたいですよね!」(牧野さん)
「聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥」というように、ちょっとだけ恥ずかしさを捨てて行動してみると、思わぬ世界に連れて行ってもらえることがあります。
「外に出ることも良いですし、家の中で、今までやっていなかった家事をやってみるのもよいですね。夫婦関係も変わってくるでしょうし、話題も広がります。いかに家事が大変かを理解すれば、奥さまの気持ちがわかって夫婦円満につながるかもしれません!
一方奥様はご主人が出不精だと嘆くばかりでなく、相手のペースを見ながら外に連れ出す工夫をしてみてください。新しいことにチャレンジして、失敗したら格好悪いと思っているのかもしれません。もし断られても諦めず、『何十年も社会で勤めあげたすごい人なのだから、やればできる人』という尊敬の念を大切に接してみてくださいね。」(牧野さん)
どうしても新しいところには入っていけないという人は、自らグループを作って周りの人を誘ってみたり、「お一人さま限定」「男性限定」などという企画に参加してみたりするのも良いでしょう。
「出かけるところがない......という人はぜひ諏訪商店に来てください!(笑)
『笑顔で挨拶』というとってもシンプルなことで、人と関わる楽しさを思い出してもらえると思います」という牧野さん。
地域活動に関わることで、楽しいコミュニケーションの感覚を取り戻せば、家族や友人とのコミュニケーションの仕方もより良い方に変わっていくでしょう。
年齢とともに、病気や老後の話ばかりになりがちですが、新しいことに携わっていれば話題にも事欠きません。
同じ一回の人生なら、楽しまなければ損!
充実した毎日を過ごしていきたいものですね。
取材協力:牧野美千子さん
埼玉県出身のタレント。特技はモダンバレエ、琴の演奏、陸上競技。在学中に「ミス実践」に選ばれモデルとして活動を開始。1984年のドラマ「超電子バイオマン」で女優デビュー。現在は築地の佃煮店の女将。
今後の活動
ライター:坂口弥生