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読書をもっと楽しい時間に、そして脳を活性化!「音読」のすごい効果とは!?

© Paylessimages

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読書を趣味にしている人は多いと思いますが、読み方を少し変えるだけで、思わぬメリットがあるようです。本や新聞の字を声に出して読むことで、心身に良い影響があることがわかってきています。

「音読」は黙読よりも頭と体を使う

小学校に通う子どもたちには、毎日のように音読の宿題を課されます。読解力を高める目的もありますが、それだけでなく、「音読は脳を活性化する」という、数々の研究結果が報告されているからという理由もあるようです。

字を目で追いながら、句読点に読み方に気を付けて、家族などの聞き手に伝わるように読み方を工夫して...と、あらゆるところに注意を配る必要があります。

皆さんも試しに、お手元の新聞や本を声に出して読んでみてください。そうすると、お腹の筋肉が心地よく刺激され、声を出すのが楽しくなってくるのではないでしょうか。

最近の研究では、誰かに読み聞かせをすることで、脳の機能が維持・改善する可能性があることもわかってきています。

絵本選び・熟読・反復音読の「読み聞かせ」はシニア世代の高度な知的活動

年とともに「新しいことを覚えるのが苦手になった」「物忘れがひどくなった」と感じるのは、誰にでも起こりうることです。このような記憶力の低下は、記憶力を司る「海馬」という脳の部位が加齢とともに萎縮し、その機能が低下していることが関係している場合が多いようです。

読み聞かせをすることで、この海馬の委縮を抑えられる可能性があるとの研究結果を発表したのは、東京都健康長寿医療センター研究所の「社会参加と地域保健研究チーム」です。

同センターでは、シニア世代による子どもたちへの絵本の読み聞かせなどを行う『りぷりんと』という活動を展開し、参加者の心身の健康状態を継続的に調査しています。

調査によれば、絵本の読み聞かせを行っているシニアのグループは、行っていないグループに比べて海馬の委縮が抑制されていることが明らかになりました。

© kobackpacko

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この研究に携わる桜井良太さんは、その理由を以下のように考察します。

「読み聞かせの活動は、本の選定から行います。

『この保育園は元気な子が多いから、この本がいい』

『高学年であれば、深みのある本がいい』

などと考えながら本を選び、当日に向けて繰り返し練習をします。本番では、人前に立って声を出して読むことで、適度な緊張や責任感を得ることができます。こうした習慣が脳の神経活動の活性化につながっていると思われます」

読み聞かせの参加者は、参加していないグループと比較して、身体のバランス能力、握力、主観的な健康感などにおいて、良い結果が見られたとのことでした。これらの結果は、「世代間交流」の結果ともいえますが、「読み聞かせ」が大きな役割を果たしていることには間違いないでしょう。

読み聞かせは地域に良い影響を与える

読み聞かせは記憶機能や身体能力の維持・向上に良い影響があるようですが、同時に地域に与える影響も見過ごすことはできません。

調査によれば、読み聞かせに参加した児童の情緒面に改善が見られたほか、保護者の「責任・義務などの心理的負担感」が軽減されたことが確認されたそうです。子育てにおいて、外部の大人が関わることは良い影響を与えるようです。

読み聞かせを行うことで誰かが喜び、地域に良い影響を与えていることを実感することで、読み聞かせ活動が生きがいになる人も少なくありません。

思い切って読み聞かせをした男性が感じた「思わぬメリット」

© Pixel-Shot

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とはいえ、読み聞かせに参加するための最初の一歩を踏み出すのには、ちょっと勇気がいりますよね。桜井さんは、読み聞かせに参加したある男性の印象的なエピソードを語ってくれました。

「ある地域で、保健師さんのすすめで読み聞かせ活動に参加した男性がいました。最初、本人は全く乗り気ではありませんでした。しかし研修を経て、初めての読み聞かせを行ったところ、子どもたちが思いのほか喜んでくれたのです。

『おじいちゃん、また来てね』

と声をかけられたことが、読み聞かせを続けるきっかけとなったそうです。

そして活動を行ううちに、地域の中で子どもや保護者とゆるいつながりができ、道やスーパーであいさつをされるようになり、『地域の中に自分を知っている人がいる』という安心感を得られたと話していたそうです。

子どもの喜ぶ顔が見られ、なおかつ自分を見守ってくれる人ができたという喜びができた良い事例だと思います。」

「人前で絵本を読むなんて...」と、最初の一歩を踏み出すのに戸惑いを感じていた人も、思い切って始めてみると、思わぬ生きがいにつながることがあるようです。

また「絵本の読み聞かせは、子育てを経験した女性が活躍するものでしょ?」という先入観があるかもしれませんが、読み聞かせボランティアの経験者談によると、男性の声による読み聞かせは、深みが増し、子どもに大人気だそうです。迫力のある場面などは、より低い声の方が一層引き込まれるのでしょう。

身近に読み聞かせ団体はたくさんある!

地域では、子ども向けの読み聞かせをしてくれる人を募集している団体が多くあります。図書館のイベントや、小学校の放課後活動での読み手を探しているグループもあります。

ボランティア募集情報や、スキルを得るための講座の情報などはお近くの図書館やボランティアセンターに加え、下記のサイトも参考にしてみてください。

読み聞かせ活動は、認知症の予防だけでなく、児童や保護者を喜ばせることができて、地域とのつながりを感じられる「三方よし」の効果があると言えます。

皆さんが育児や社会生活で培った経験を読み聞かせ活動に生かすことで、喜んでくれる人がたくさんいるはずです。


【取材協力】

桜井良太(さくらい・りょうた):首都大学東京人間健康科学研究科修了後、早稲田大学スポーツ科学学術院(日本学術振興会特別研究員)、ウエスタンオンタリオ大学研究員を経て2017年より現職(東京都健康長寿医療センター研究所「社会参加と地域保健研究チーム」)。

桜井良太氏

取材日:2019年9月25日


【参考】

NPOりぷりんと・ネットワーク

https://www.nporeprints.com/


筆者

北川和子