ホーム > 埼玉人生100年時代の楽しみ方研究所 > 元気な肉食シニアが増加中! 地域交流で心と身体のエネルギー補給を
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みなさん、お肉はお好きですか?
シニア世代の食事というと、「肉は控えて、野菜や魚など消化に良い食材を」とイメージしがちですが、実は今、元気な「肉食シニア」が増えているというのです。
確かに、テレビのインタビューなどで元気なシニアが、「好きな食べ物は肉!」と答えるシーンをよく目にするようになりました。体の衰えを防ぐために、シニア世代こそ肉を食べた方が良いという専門家も増えており、「シニアと肉」の関係について、多方面から注目が集まっています。
日本応用老年学会理事長・医学博士の柴田博氏の研究 *1) では、シニアの健康をサポートする食材として肉や牛乳を勧めており、平均寿命の伸長にタンパク質摂取が深く繋がっていると発表されています。
また、厚生労働省の有識者検討会の報告書 *2) では、シニアの健康をサポートする栄養素として肉や魚、豆類、乳製品などに含まれる「タンパク質」を挙げており、65歳以上の筋力や身体機能の低下防止にタンパク質が深く繋がっていることを発表しています。
ただし、タンパク質の摂り過ぎは逆効果になる場合もあります。適量については、かかりつけ医や栄養士に相談してください。
元気な肉食シニアが増える一方で、シニアの「低栄養」が社会問題になっています。厚生労働省の定義 *3) では、低栄養とは「健康的に生きるために必要な量の栄養素が摂れていない状態」を指し、平成29年度の厚生労働省の調査 *4)によると、65 歳以上で低栄養傾向の割合は、男性12.5%、女性19.6%という結果でした。
低栄養の原因は、消化機能や咀しゃく機能などの体の衰え以外にも、
・自宅近くに商店がない
・病気や怪我で買物に出かけるのがなど大変
などが考えられ、特に農山村地域では「買物不便」が低栄養や栄養の偏りに影響しているという調査結果 *5)もありました。
聖隷クリストファー大学/浜松医科大学の研究 *6)によると、低栄養となっている人は、肉や魚などの筋力維持に必要なたんぱく質摂取量が低く、特にご近所付き合いが少ないひとり暮らしの高齢男性に深刻な影響がでているという報告も。
出典: 近所付き合いが少ない男性高齢者買い物不便だと肉魚・野菜果物不足が1.3倍 - 聖隷クリストファー大学/浜松医科大学
高齢男性が影響を受けているのは、以下の理由が挙げられます。
・仕事中心の生活のため地域との繋がりが少なく、定年退職後もなかなか地域で関係を作れない人が多い
・料理や栄養管理の経験が乏しい
これらの調査結果を受け、最新の状況や今後の見通しについて、仲村秀子准教授(聖隷クリストファー大学看護学部)にお話をお伺いしました。
「プレスリリースを出した2017年当時からの2年間で、高齢者の低栄養や買物不便の問題が広く認知されるようになり、自治体や民間で解消に向けた取り組みが積極的に進められています。また、近い将来高齢者となる現在の中高年層の男性は『男子厨房に入らず』の考えを持つ人は少なく、料理を始めとする家事全般をこなせる人が増えています。
自身で食事の管理ができる男性が増えているので、これらの問題は徐々に解消に向かうことが考えられます。」
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幸いにも、状況は改善の兆しを見せているようです。埼玉県内63市町村でも「地域支え合い仕組み」団体が活動し、有償ボランティアが高齢者への買物のサポートなどにあたっています。
また、シニアの一人暮らしであっても、週1回以上友人・知人と食事を楽しむことは心と体に良い影響があるようです。男性も女性も食事に対する満足度が高く、女性については自身の健康状態が良好だと感じる人の割合が多いという研究結果 *7) もありました。
自治体や民間団体のサポートや近隣で買物分担を行なっている地域では、ご近所付き合いや世代間交流の機会が増え、地域で定期的な食事会を実施しているところもあるようです。
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しかし、いくら「肉を食べよう!」と言っても、歯が悪いとつい敬遠しがちになってしまいます。低栄養の要因のひとつに「噛む力の低下による食事量の減少」も挙げられているように、たんぱく質が豊富な食品をしっかり噛んで味わうためにも、歯の健康は重要です。
歯の健康が重要であることは周知の事実ですが、「友達の種類が多い高齢者は歯が多い」というおもしろい研究結果もあります。(友達の種類が1つ増えると歯が多い可能性が1.08倍高い)*8)
「友人の種類と歯の数がなぜ関係するのだろう?」と不思議に思いますが、自分と異なった年代、異なった生活パターンや背景を持つ人とつながりを持つことで、新鮮な幅広い情報を得ることができます。
考えてみると、友人の口コミで病院を選んだりオススメのデンタルフロスを使ってみたりと、確かに友人のアドバイスは影響力があるように感じます。
多様なつながりを持つことが、口の健康や食べたいものを食べられるという食生活に関係し、ひいては栄養状態の維持になるなんて、驚きですね!
食生活が健康に大きく影響することは既に知られていることですが、体に良い食生活で過ごすためには、多様な友人を増やすことや、いざという時に買い物をサポートしてくれるつながりをつくることがポイントだと分かりました。
身近なご近所間でつながることで買い物分担ができ、会話や食事を共にすることで、歯を守り、買物不便と低栄養の問題を解消できるとは、まさに「一石三鳥」ですね!
【参考】
*1)出典:柴田博(日本応用老年学会理事長・人間総合化大学教授)一般社団法人Jミルク研究・レポート『高齢者栄養におけるタンパク質の重要性』P5~6(2014)
https://www.j-milk.jp/report/study/h4ogb400000010wq-att/a1564714646780.pdf
*2)出典:厚生労働省 『日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会報告書(案)』P415~425(2019.3)
https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000491509.pdf
*3)出典:厚生労働省『e-ヘルスネット』
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-021.html
*4)出典:厚生労働省『平成29年国民健康・栄養調査結果の概要』P8(2017)
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000351576.pdf
*5)出典:農林水産政策研究所『食料品アクセス問題の現状と課題 -高齢者・健康・栄養・多角的視点からの検討-』(2017)
http://www.maff.go.jp/primaff/kanko/project/attach/pdf/170331_29kyokyu3.pdf
*6)出典:聖隷クリストファー大学/浜松医科大学 『近所付き合いが少ない男性高齢者買い物不便だと肉魚・野菜果物不足が1.3倍』(2017)
https://www.jages.net/pressroom/?action=cabinet_action_main_download&block_id=1000&room_id=919&cabinet_id=95&file_id=2665&upload_id=3099
https://www.niph.go.jp/journal/data/66-6/201766060006.pdf
*8)出典:Aida J, Kondo K, Yamamoto T, Saito M, Ito K, Osaka K, Kawachi I
東北大学大学歯科研究科歯科保健学分野 『「友達の種類」が多い高齢者は、歯が多い』(2016.9) プレスリリースNo085-16-15
https://www.jages.net/pressroom/?action=cabinet_action_main_download&block_id=967&room_id=919&cabinet_id=20&file_id=3373&upload_id=3979
筆者
川添道子