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「遊び・楽しみ」から、地域に踏み出す

© imtmphoto

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「好きなことから地域活動のきっかけを作りましょう」という言葉はすでに色々なところで言われていることだと思います。しかし中には

「好きなことが分からないから困ってるんだ!」

「既にできてる仲良しグループに入っていくのは敷居が高い......」

という人も多いのではないでしょうか。また、頭では分かっていても何から取り掛かればいいか分からない人もいるでしょう。

武蔵野美術大学塚本氏インタビュー:まずは自分が楽しめることをみつけよう

まずは「地域活動」を考えず、自分が本当に楽しめることを見つけてみてください。無理なく、長く続けるためには、まず自分が楽しめなければなりません。ユング心理学に詳しい武蔵野美術大学で非常勤講師を務める塚本純久氏にお話を伺ったところ、「遊び」は子どものみならず、大人にとっても大変重要なことだそうです。

心理学者ユングと人生のターニングポイント

「ユングという人は、中年期以降の心理について興味を持っていました。人間関係や生き方に悩んだり、闘病に直面したりという"ターニングポイント"は、誰しもが経験すること。ユング自身は、身近な人との別れがターニングポイントとなりました。

日本の伝統文化「盆石」を開設する塚本氏

<日本の伝統文化「盆石」を解説する塚本氏(写真中央)>

ターニングポイントでは、いつもとは違う新しい考え方や行動、それに"遊び"の要素が必要となります。ユングは素人ながら自分で別荘(石塔)を建て、そこにこもって考えました。私たちに置き換えて考えるなら、たとえば昔好きだったもの・ことを思い出す、あるいは自然に触れてみるなど五感を使ってみるとよいでしょう。家でできる遊びもありますが、心や体を刺激する実体験のほうが、よいきっかけにつながることがあります。

日本では"遊び"というと、お金を生み出さない活動、実質的価値のない子どものためのものと捉えられがちですが、実はそうではありません。研究開発やビジネスシーンでも、"遊び"から新しいことが生まれますし、人生を楽しむ上でも遊びは欠かせないことです

遊びの見つけ方

子どもたちとツリーハウスを作る塚本氏

<子どもたちとツリーハウスを作る塚本氏>

遊び方がわからなくなってしまったという人は、子どもの頃どんな遊びをしていたか、何に興味があったかを思い出してみてください。または、「自分が好きな食べ物は?」「今食べたいものはなにか」と、自問自答してみましょう。食欲のような生理的欲求(一次的欲求)を大切にしてみれば、自分の好みや楽しみを見つけやすくなります。 "遊び"に出会うためには、自分自身のことを知る必要があるのです。

お祭りは身近な地域交流の場

昔は、町のお祭りが地域交流のきっかけを生み出していました。お神輿を担がない人も、町中に貼り紙をはってまわったり、お神酒や食事の用意をしたりと何かしらの役割を担い、どんな人でも地域との交流が自然と得られていたのです。

カナダ先住民のクリンギット族は、現代においても"ポトラッチ"という儀礼・集会を大切にしたり、寒い冬を乗り越えて生き延びるために、秋までに手に入れた食料、衣服、生活に必要なものを同じ部族の人々と分かち合ったりしています。

© kawamura_lucy

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日本でも、クリンギット族のように老若男女が次世代と助け合って生きてきました。近年は核家族化が進み、助け合う場面が少なくなってきましたが、かろうじて「お祭り」という形でその文化が継承されています。

もしあなたの住む地域に「お祭り」が残っていたら、自治会などを通じてお手伝いをかって出てみてはいかがでしょうか。

「お祭り」は単に楽しいだけでなく、儀礼・集会の文化、そして「つながり」や「分かち合い」の精神を伝承していくものでもあるのです。

自分を知るヒントは日本の昔話にあり

ユング心理学では神話やおとぎ話を必ず研究するのですが、日本の"昔話"には、人生のヒントが満載です。自分と向き合う時、眉間にしわを寄せて考えているだけでは辛いでしょう。自分を見つめ直すきかっけとして、昔好きだった"昔話"をもう一度読んでみてはいかがでしょうか。

そして、そこからどんなメッセージを受け取るか、自分の心の中を観察してみてください。一人で観察が難しければ、家族や友達など信頼している人に、思っていることを話してみてください。その中で気づくことがあるかもしれません。

食欲などの生理的欲求に注目したり昔話を読んだりすることは、今すぐできそうです。お祭りのかわりに、まずは近所で行われているワークショップや教室に通ってみるのもお勧めです。そこからだんだん交流が深まり、よい仲間に囲まれる日々が待っているかもしれません!

それでも「好きなこと」が見つからない? 「習い事」は簡単にできる第一歩!

好きなことが見つからなければ、「新しく始めてみる」という方法もあります。例えば音楽などはどうでしょう。(株)ジー・エフの調査によると、「音楽・楽器」はどの年代にも人気があるようです。

(株)ジー・エフ/シニア・高齢者の習い事に関する調査

<出典:(株)ジー・エフ>※調査レポート(PDF)へリンク

山野楽器の音楽教室「ヤマノミュージックサロン川越」では、オープン以来シニアの入会数は右肩上がりとのこと。音楽教室は子供の習い事と思いきや、同教室では50代以上の人が56%も! 2人に1人はシニアということで、取材日当日も、待合室でクラリネットの手入れをしているシニア男性を見かけました。(2019年10月現在)

「楽器なんて、初心者には無理だよ」と思われるでしょうが、実際に入会されるほとんどの方が初心者なのだそう。動機やきっかけも、以下のように様々です。

  • 楽器は昔からやってみたかったが、仕事で忙しく時間がなかった
    →子育てから手が離れた/仕事を定年退職したことをきかっけに始めた

  • 好きな音楽で、手軽に趣味を持ちたかった
    →まずは楽器を買わなくてよい歌や、オカリナなどの小さな楽器から始めた

  • 昔から音楽が好きで、憧れのミュージシャンがいた
    →憧れの曲を何か1曲弾いてみたいと、サックスやギターを始めた

© eggeeggjiew

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  • 「孫がブラスバンド部でクラリネットを始めた。音楽自体初めてのことだが、まったくの初心者でクラリネットを習い始めた。上手になったら孫と一緒にアンサンブル(合奏)をしてみたいと頑張っている。近い将来に目標ができ、生活にハリがでてきた」(60代・男性)

  • 「娘の結婚式で、サプライズピアノ演奏を企画。全くの初心者だったが、家族全員に内緒でピアノを習い始めた。人前で弾く度胸をつけるため、教室主催のコンテストにも出場して見事入賞。本番は多少まちがえたものの、皆をびっくりさせられて大成功! 結婚式までと期間限定で始めたピアノだったが、結局そのあとも続けている」(58歳・男性)

「ヤマノミュージックサロン川越」の運営責任者・酒井さんによると、楽器はハードルが高いという人でも、歌のクラスは入りやすいのだとか。例えば「青春ポップス」というコースでは「カラオケ以上、レッスン未満」と銘打ち、懐かしの曲を楽譜なしで歌うのだそう。歌いながら体を動かすクラスもあり、健康を気遣う人にも人気があるということです。

(株)ジー・エフの別調査では、健康管理のために習い事をする人は多いようです。

(株)ジー・エフ/シニア・高齢者の習い事に関する調査

<出典:(株)ジー・エフ>※調査レポート(PDF)へリンク

「定期的に通う場所がある」というだけで、生活リズムがつくりやすくなるという声もありました。

楽器以外にも、英会話や料理教室なども、50代、60代の方に人気があるそうです。

楽しみが見つかる以外に思わぬ副産物も!

グループレッスンの場合は友達ができやすく、そこからレッスン以外でのつきあいがうまれることも。

年齢を重ねると友達作りが難しくなりがちですが、住んでいる地域や関心が同じ人たちが集まる「習い事」は、友達づくりの良いきっかけとなり得ます。プロから習得したスキルは家族や友達、そしていずれは地域の人にも広めていくことができそうですね。

レッスン後には、ぜひお茶や食事にクラスメイトを誘ってみてください!


【取材協力】

  • 塚本純久(つかもと・いとく)
    武蔵野美術大学・大学院卒業。フローベル・セミナリエットデンマーク留学(1977‐80)後、スイス・チューリッヒのユング研究所ユング分析心学を卒業(1983 - 1997)
    現在は武蔵野美術大学大学院・博物館実習講師を務め、国内・欧米各地で創造性・プレイ/アートセラピー・ワークショップと日本とモンゴロイド系先住民の伝統文化について研究調査を続ける。アートセラピーを伝える「ETOKU道場」や「イトクの絵解き~自分の中のアートに出会う」など、アートを通した癒しや発見を広める活動をライフワークとしている。
  • 山野楽器「ヤマノミュージックサロン川越」
    https://www.yamano-music.co.jp/lesson/school/kawagoe

【参考】


筆者

坂口大介